サマーウォーズ/サマーウォーズにこだわりすぎ

cajolery2009-09-10


新宿バルト9細田守サマーウォーズ」を見てきた。制作者のこだわりを感じられる映画であり、そのこだわりが作品としての歪さを生んでいるようにも感じられた。まるで設計者のデザインはゆきとどいているが、実際に暮らすには骨の折れる建築のようだった。総論的な批評をできないシーズンが続いているので、分割して反芻していこうと思う。まあ例によってネタバレだらけ。


  • こだわりすぎて歪な点
    • 今作のようないってみれば大衆向けエンターテイメントは、なにがしかオオゴトが起きて、それを解決するまでの物語である。今作ではオオゴトをバーチャル空間の崩壊とそれによる現実世界への干渉、解決者を陣内家という30人余りの一族御一同に設定しているわけだが、このコンセプトにこだわりすぎたのではないか。そのこだわりすぎの歪みの最たるものが、オオゴトに対し、一般社会がどう解決を図ったかが一切描写されないことだ。
      中盤、お婆ちゃんがその顔の広さや人脈を活かして方々の行政や管理者に発破をかける場面があるが、ふつうのエンターテイメントであれば、ここでは行政や管理者の不手際がまずもって描かれるものと思われる。次いでお婆ちゃんの激励があり、その結果不手際が(まだ中盤なのである程度)善処された旨が描写される、これでワンセットのセオリーであろう。
      が、今作はそういう説話を避けるのだよね。セオリーを避けたわけではなく、陣内家以外の描写を避けているようだ。終盤、コトが人工衛星のハッキングにまで至っても、それを解決しようとする一般社会・警察組織・ネットワーク管理者などの動きが描かれることはついになく、異様ですらある
    • たぶん話者によっては「セカイ系」とかのタームを持ち出すのかもしれないが、俺には塵ほどの興味もない話法なので、省く(ことしかできない)
    • ワビスケとナツキ先輩が電話する場面などで、現実世界の人々が地域のお祭りを楽しんでいる様子が描かれており、今作のオオゴトはネットでばかり特に騒がれている事件(我らが形而下にもありがちなことだわね)なのではないか、とすることも可能。しかしこの意識は「オオゴトが起きてそれを解決する話」としては、興を削ぐものでもある
    • そもそもの出発点として、インフラ・行政・職場としてまで機能しているOZの管理キーが、一高校生によって数時間あまりで突破されてしまうことに、なにがしかのフィクショナルな説明が必要なのではないか。もっとも今作的でない解として、ふつうのエンターテイメントなら、主人公の父親がOZの管理に携わっていて〜暗号の一部に主人公の幼年期の思い出が関与していて〜主人公はその特別な利を活かして暗号を解いてしまう、といった説明かなんか、付随するものと思われる。が、今作は今作的でないフォローは採用しない
    • OZのメカニズムなど理解させなくとも、映画としては成り立つのだ、という映画。花札対決に一切ルール説明がない点(=アバターをベットしてくれた外国人ネットワーカーとおなじ立場として読者がシーンに参加する)にも見られる、今作の面構え
  • 文句なく素晴らしい点
    • この手のお話への定番のツッコミとして、なに? コンピュータが超強力なウィルスに感染しただって? なら電源を引っこ抜けばいいじゃないか! というものがあるが、今作ではそれができない。なぜなら、映画が始まってかなり早い段階で、テレビをリモコンで操作するガキどもを止めるために主人公がテレビの電源を引っこ抜くシーンがあるからだ。おなじ解法を二度使ってはいけない、という美学に裏打ちされた今作の「口封じ」を、誰が買わないことなどできるだろう
    • これは女の映画であり、「ファミリー」を描いた傑作という意味で、関連作としてフランシス・F・コッポラ「ゴッドファーザー」を積極的に推したい。あれもまた女たちが前面に出ないながらも存在感を強く示していた映画であり、ふだん碌なもん食ってない闘う男たちが、繰り返されるパーティにおいては手料理を口に運んでいるのが印象的だった。今作の女たちが特に輝くのは、お婆ちゃんが亡くなったあと、葬儀の準備を始めるあたりだ。これはフィクションとしてはほとんど奇跡的な場面で、我々が死人に対して最初にしなければならないのは、弔いや仇討ちなんかではなく、まさにこういった事務仕事なのだ
    • ラブマシーンに雪辱するために男たちが準備に奔走するシークエンス、カズマと師匠が準備体操をするカットで、止めようのない謎の滂沱の涙があふれでた。我が事ながらあまりに理由が不明なので困った

個人的な見解としては、サマーウォーズサマーウォーズらしさを貫いた映画ではあったが、サマーウォーズらしくない部分へのフォローがばっさりと切られていたのがどうにも気になった。切るでなく、糊塗すればよかろう。もっと正直な感想をいえば、俺がつっかかることなく飲み干せる作品を作りなさいよ! ということなのだが、正直であればよいというわけでもないので、この辺で終いとする。

うーん、そろそろ総論的なテキストが書きたい気分だなあ。